top of page

 Vol.46 家と時間
 
 高知の田舎道をたどっていると、はっとします。百年をこえてそこに あるような、木造の家。そして、かいまみられる生活のようす。あのなかはどんな風だろう、と心がさまよいこんでしまうほどです。それからそれへと空想するのは、その家に生まれたひとの、誇らかな、安らかな気持ち。
 
 農家であれば、いくつかの建物が穏やかなまとまりで点在しています。土佐漆喰ぬりの蔵は遠くからも目だち、風雪に、というよりも激しい雨と梅雨の湿気と太陽に耐えてきた姿は、母屋の屋根が朽ちてもなお、蔵は残るだろうと思わせます。
 
 時には赤いレンガ塀が石垣のうえに長いコントラストを描いていたり、モダンな洋館風の建物が敷地内にこのうえないバランスで建て増しされていることも。いつまでも高知の風景のなかに残ってほしい情景だけれど、時間は限られているのだから、出会い、ながめる喜びはひとしおです。
 
 先日訪ねたいくつかの酒蔵も、古い建物や煙突がすばらしい調和をみせていました。外からの印象をいっそう質実なものにする、その内部。こうした蔵で醸されるお酒もすばらしい味でしょうけれど、このたたずまいのなかへ立ち入る幸運に、心ふるえます。通りがかるたび、心によみがえらせて愉しむ、記憶の贈りもの。

 

2015-09-08 配信

bottom of page