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Vol.31 田ごとの水鳥
 
 田ごとの月、ではありませんが。田植えが終わって水がなみなみと張られた田んぼを眺めると、あちらこちらに白い姿が。あれは シラサギ、なかにはもっと大きなアオサギなどもまじっています。みな一様に、じっと畦に立ちつくして動きません。
 
 この季節は姿をさえぎる稲もまだまだ小さくて、水鳥が目立って いるように思えますが、じきに稲はすくすく伸びて、彼らの姿を隠してしまうでしょう。とにもかくにもじっと我慢で、水のなかの獲物が 近寄ってくるのを待っています。カラスはもっと大胆に田のなかを歩 きまわっていますが、シラサギたちの方法は、いかに物と化して、エサをゆだんさせるかにかかっているようです。
 
 これほどたくさんの水鳥が、身近な場所で生きているということに も、驚かされます。鳥たちの帰るコロニーは、あの山でしょうか、それとも向こうの山でしょうか。海へとつづく川があって、低い山があって、町があって、田畑のある高知の里山に暮らす、野生の生きもの。
 そういえば、田植えのまえに農家の人がトラクターで田起こしをしていた春先には、野生とは思えないほどトラクターのうしろをついて歩き、冬の眠りからさめたカエルや虫を、うれしそうについばんでいたのでした。
 
 あたり一面、湖のようになった春景色のなかで、畦に置かれた飾りもののような白い鳥。夕暮れまでには、ちゃんとお腹いっぱいになりますように。
 
2013-05-15  配信

    

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