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Vol.11 そらへ、そらへ。
 
 山あいの田舎道を車でのんびり走っていると、ふと、知らない道へ分け入ってみたくなります。冬の午後、金色の陽射しがまだ残っているあいだに、どこかへつづいているかもしれない細い道を、行けるところまで。
 
 さっき通ったカーブは、まるでスプーンのような曲線でした。そういえば、高知の山で暮らす人たちは昔から、山のてっぺん近くのことを、「そら」と呼んでいるそうです。確かにいま、私たちの乗った車は、くねくねの道を曲がるたび、そらへと近づいています。それにしても、はるかな高さ。でもまだ、石垣を積んだ段々畑や集落がぽつぽつとつづいていて、ずうっと下の視界の底に、光る河が蛇行しています。
 
 伝説となった昔、山の上に住んでいたのは、平家の落人であったり、その土地の有力者たちだったといいます。四国の奥深い山の上は、水もあれば陽あたりもよくて、尾根を伝って各地へつながる道もあったし、谷間よりもずっと安心して暮らせる場所だったのです。
 
 この午後、分け入った道は予想をこえて延びていました。そらへそらへと上がり、見たことのない天空からの風景を楽しませてくれた道は、山をいくつか回って旅した後、最初に登りはじめたあたりへと、ブーメランのように戻り着きました。
 
2010-02-01 配信
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