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Vol.22 めだかの谷。
 
 町からほど近いけれど、ほとんど人家のない谷があります。山からのきれいな水が少しずつ流れこむ用水路が、田んぼのそばにありました。コンクリートに包まれてはいましたが、少しだけ堰きとめられた水のたまり場に、スイスイ泳ぐものが見えました。黒めだかの群れです。20匹近い数がいて、飼われているものより大ぶりで、引き締まった体つきでした。
 
 気をつけて見れば、水のたまり場にいるのは、めだかだけではありません。大きなイモリが何匹も、ゆらゆらと漂ったり、草につかまったりしています。名前を知らない水生昆虫も泳いでいます。青く光る糸とんぼが、水草のはしっこに、つんと留まりました。
 まるで遊んでいるかのように見える生きものたちの姿に、人間はついつい心配してしまいます。夏が終わって、秋が来て、冬になっても大丈夫なのだろうかと。このたまり場がもし、なくなってしまったらと。
 
 向こうに目をやると、この谷の人々を守る氏神さまがありました。緑にあふれかえったこの谷で、もくもくと田や畑を世話する人々を見ながら、氏神さまも、そんなことを心配するでしょうか。それとも、元気な姿に満足しているのでしょうか。
 
 めだかの群れは行ったり来たり、スイスイと、流れを切って泳いでいます。真冬には氷の下で過ごし、この川がコンクリートになったときの大工事も、乗り越えてきた群れなのでした。
 
2011-08-23 配信
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