top of page
Vol.16 ほやほやの田んぼ。
 
 もう赤とんぼが舞い始めた切り株だけの田んぼに、なまあたたかそうな水をたたえた、春のような風景が隣りあっています。植えられたばかりの小さな稲が微風に揺れて、ここでは今年2度目の田植えがすんだばかりなのです。
 
 高知らしい二期作の風景も、いまはもうそれほど見られません。でも、夏の終わるころに生まれた、できたてほやほやの田んぼは、なんの抵抗もなく、南国の風景にすんなりとはまっています。記憶のどこかに、平地の田んぼは稲を刈ったらまた水を張り、新しい稲を植えるものなのだろうという予感があるのです。山ならこうはいきませんが。
 
 残暑に照りつけられ、温泉のような田んぼの水には、久しぶりに見かけるゲンゴロウの姿もありました。小さいのがたくさん、いきおいよく泳ぎ回っています。小さなタニシのような貝もいます。春先の澄んだ水とはちがって、藻のヴェールをかぶったような晩夏の水辺を、居心地よいすみかとして。
 
 こうして植えられた稲は、ちゃんと秋の終わりには収穫されます。「年にお米が二度取れる」と、よさこい節に唄われた高知の稲作。ひとつの田んぼで取れた新米を、二度味わうことができれば、どちらの味にもやはり、惹かれるでしょうか。
 
2010-10-27 配信
bottom of page