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 Vol.49 地酒びいき。
 
 東西に長い高知に、点々と酒蔵が残っています。残っているというと旧式に聞こえますが、この数十年で蔵の数はずいぶん減ったものの、新しいお酒はつぎつぎと生まれています。昨今は、日本の文化や和食とともに、海外へも出ていって土佐酒の味をアピールしているという頼もしい状況です。

 

 ごく自然に、高知の人たちは、中央の銘柄よりも地元のお酒を呑んできました。皿鉢料理を並べた宴会、気どらない「お客」の席でも、しゃれた料理のお店でも。味は全般に淡麗辛口といいますが、なかにはあえて甘口寄りにつくったお酒もあって、それぞれに個性を競っています。この、それぞれに自分らしさを競うところが、土佐らしくて、お酒はいっそう胸にしみるのです。

 

 古いたたずまいの酒蔵を見せていただくと、麹室の壁がとても厚かったりして、温度や湿度を一定にする昔ながらの知恵が生きていることに驚かされます。高知は緯度的に日本酒の南限ゾーンに入っており、この温暖多湿な、そして寒暖の差が大きい地で、焼酎でなく日本酒をつくろうというのは、杜氏泣かせの技でもあるとか。

 そうしてできあがった土佐の酒は、この地でしかつくりだせない何ものかを、確かに宿しているのです。この地の食に添い、この地の笑顔を染める、何ものかを。

 

2015-12-30 配信

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