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Vol.34 山と里のあいだで。
足もとに、たんぽぽの綿毛にも似た、白い花の球が点々と咲いています。畑のふちや、路地のコンクリートのすきまにも、すっと立ちあがったまっすぐな茎の先に、白いかたまり。 これは野蒜(のびる)です。顔を近づけてよく見れば、星の形をした花びらの、可憐なこと。山に近い集落では、春にその丸い根っこを食べていた野蒜(のびる)が、こんどは星のような白い冠をつけて、あちらこちらで群れているのでした。
斜面には民家や小さなビルも建っていますが、段々畑のなごり もあります。そんなところには石垣の間に根をしっかりと張った、小さなお茶の木が、必ずといっていいほどあるもの。山里の集会所で地元の女性たちとお昼をいただいたら、食後のお茶をと、外からひと束摘んできてくださいました。
ほんとうはあぶってからするんだけど、といいながら、やかんに 沸かしたお湯へ緑の葉っぱを枝もいっしょに入れます。 何分か煮れば、できあがり。野生に近いお茶の葉は、ほうじ茶のような香ばしさのある、おなかに優しい味でした。
思えば、春の野蒜も、葱や韮とはずいぶん違う、繊細な辛みをもっています。作物のように手をかけて育てているのではない けれど、ずっと前からひとのそば近くに生きていて、季節のおりおりに恵みをもたらしてくれる植物たち。一度その喜びを知ったなら、誰かに伝えたくて、なりません。
2013-10-07 配信
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