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 Vol.52 椰子たち 
  

 1987年1月13日、昭和でいうと62年。30年ほど前の冬の朝、高知の街は白い雪におおわれていました。めずらしい南国の雪景色を記録しておこうと、撮影したポジフィルムが部屋からでてきました。画面の空気は透明で淡く明るく、とりわけ私の思い出と結びついている風景があります。
 

 高知市の中央公園で撮った写真です。緑でうっそうとしていた公園は、地下に駐車場をつくるために全面改築中でした。石畳も、たくさんあった植物も取り払われていました。ただ、ワシントン椰子の列だけが、白い世界に立っています。椰子のこずえにも、雪は積もっていました。植えて30年以上たっていたと思います。
 

 それからほどなく、ワシントン椰子たちは、高知港の桟橋や高知駅前、手結のヤ・シィパークなどへ移植されていったのです。高知の街には背の高い椰子が似合います。移植された椰子は、地面とつないだワイヤーで支えられたりしながら、何年かたつうちに、ぴったり景色に納まっていました。
 

 いまではもう、あの椰子たちが中央公園から移植されてきたことも、記憶から忘れられようとしているようです。あまり例のなかった移植という大きなできごとを経験しながら、椰子たちは倒れもせず、高知の各地で南国らしい風景をつくっています。

2017-01-13 配信 

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