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Vol.9 お祝いを食す。
 
 どら焼きのような丸いお菓子。真んなかが少し盛り上がったきつね色の生地に、大きな「寿」の一文字が、くろぐろと描かれています。この文字は羊羹に寒天をまぜて絞りだしたもの。土佐清水で「満月」「半月」「寿まんじゅう」などと呼ばれている、地域に伝わる祝い菓子です。地元の和菓子やさん、パンやさんでも手に入りますが、結婚式や初節句など、お祝いごとの引き菓子として大量に作られていた、ハレの日のお菓子。
 
 生地には羊羹とこしあんを配合した特製あんがサンドされていて、昭和の子どもたちの笑顔がよみがえってくるような懐かしい味わいです。子どもたちは、寿の字をぺらりとつまんで、先を争って食べたものだとか。ひと筆描きの要領なので、きれいにはがれます。お菓子が直径20cm近いサイズなので、一文字といえども、食べ応えはかなりのもの。
 
 職人さんも、一枚一枚、入魂して描いたと聞きました。お祝いの気持ちを込めて焼いたお菓子に、気持ちを込めて描いた文字。その「ことば」を食べることで、おめでたいものが、身のうちに取り込まれる幸せ。大家族で暮らしたころ、みんなでこれを分け合い、祝いをことほぐ体になって、お菓子の甘さに酔いしれたことでしょう。
 
2009-11-21 配信
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