top of page
Vol.37 鰹の泳ぐ町
高知で鰹のことを話しだすと、好き嫌いはべつにしても、勢いがついてしまいます。よほど料理好きでもなければ、家庭の食卓にのぼる鰹は、買ってきたタタキや刺し身で食べるぐらいのことしかしないけれど、もしも鰹が食卓から遠ざかってしまったなら、そこはもう高知ではなくなるのです。いえ、食卓だけではありません。高知の町には、海辺でなくてもいたるところに鰹が、鰹の絵やら写真やら、文字やらが躍っているのです。お菓子の袋にさえも。
春ともなれば目に青葉の初鰹ですが、さほどありがたさは感じていません。年中そばにあるものだから、脂の乗り具合がどうこうよりも、気にするのは新しいかどうかです。これほど魚介類の鮮度にこだわる県民はいるのだろうかというぐらい、ほんのちょっと色がかわっただけで箸をつけようとしなくなります。
おいしい鰹のにおいを、高知のひとは鼻でおぼえています。でも、にんにくやきゅうり、ねぎやたまねぎ、おおば、りゅうきゅう(はすいも)など、好きな薬味はちゃんと選ぶのに、たたきのタレにはさほどのこだわりがありません。しかも毎週のように鰹を食べていながら、特産の鰹節で出汁を取ることはめったになくて、ふだんの煮物やみそ汁は、だしじゃこや昆布を使うのです。
高知のひとが鰹の赤い身を好むのは、暑くて長い夏場を乗り切るのに役立つ成分が多いから、という理にかなった解釈もあります。それはともかく、鰹だけはほかの魚と明らかに分けて呼び、食べ、暮らしている空気を、高知へ来たなら、くんくんと嗅いでみてください。
2014-05-03 配信
bottom of page