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 Vol.51 雲の呼び声。 
  

 雨がたくさん降り、かとおもえば青空の日も多い高知というところ。季節季節の空にあらわれる雲の姿は、それこそ千変万化。海も山もあって、気候の変化が大きいから、雲のおもしろく美しいところだと思っているのですが。

 

 低くたれこめて街の上を流れゆく雲は、手をのばせば届きそうな質感です。地面に落ちる雲の影の、心さらわれてしまいそうなスピード。一転、落ち着いた透明な空に紗をひいたような薄雲は、はしから消えてゆくさざ波。冬の海上にあらわれた天使の梯子は、天上からの啓示そのもののようで。

 

 どこまでも高く湧きあがってふくらむ、夏の盛りの入道雲。ひこうき雲がいくつもいくつも交差して、やがて航跡が竜のようにうねりひろがる午後。はっと見とれてしまうのは、夕暮れの数分間、西の空で太陽を反射して白く光っている雲の輪郭。夜の散歩でふと見あげれば、月をまあるく取りまく雲の傘がかかり、淡いなないろをしていて。そして山間部の朝、ふかぶかと谷間をおおうのは、乳白の雲海。陽がのぼれば雲散霧消すると、わかっているけれど。

 

 なにかを伝え、あるいは思いおこさせるかのように、形を変える雲たち。雲の発する呼び声。それらを心に映しながら暮らすことは、われしらず世界の変化をうけとめているのかもしれません。

2016-11-02 配信 Photo  by  KEIKA KUBO「空の波打ちぎわ」 

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