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Vol.1 瓦のいろ。
 
 雨上がりの空気にしっとりとなじんでいる、くすんだ屋根の建物。戦前に建てられたとおぼしき家々の瓦を眺めると、見飽きないほどの色が見えてきます。土佐の古い時代の瓦にはあって、今の瓦にはない色が。ひっくるめれば灰色になってしまうけれど、もともとの高知の土からきた色と、年月をへて枯れながらも浮きあがってきた、雑多でぬくもりのある無数の灰色が、そこには宿っているのです。木組みと漆喰の家や蔵を、うろこのように守っている、いらかの淡いいろどり。
 
 高知で見かける古びた瓦は、みずから光ることなく、まわりの風景と慣れ親しんだ安心感を建物に与えてくれます。私たちが今では旧道と呼ぶかつての街道筋に残る商家や、田園の農家に、お屋敷町の門構えの上にも、そんな瓦が残っています。この瓦だけでなく、全体をそのまま再現することのできる職人さんは、まだどこかにいるのでしょうか。
 
 長い時間を雨風や太陽とともに旅してきたものにだけ許される調和が、屋根からにじみ出して、周囲にとけています。古びた瓦の灰色は、たとえ建物が滅びても残しておきたいと思わせる、風土の記憶を伝えるかのようです。
 「雑多でぬくもりのある」というのは、高知の人たちにもつながる風味なのでした。
 
 
2009-02-11  配信
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