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Vol.20 湿った、ふかふかの。
ものみな水気したたる梅雨のころ。高知には、とりわけ たっぷりの雨が降りそそぎます。そんな日々に、ふと近くに目を寄せて見たくなる、ふかふかのクッション。岩や湿った場所に育つ、さまざまな種類の苔たち。これだけ雨が多いのだから、高知の苔はきっと、この環境を謳歌しているに違いありません。
離れ小島のように、こんもりと点在する緑。森のような大きい群れ。ひらひらと波打つもの。水を含んでしっとりとやわらかな緑と、そのそばで共生する野の植物が、景色をつくっています。コンクリートについた苔の表情ひとつで、風景も変わるほどに。じっと眺めるだけで、どこへも出かけずして小さな世界に心遊ばせてもらえる、苔のひとむら。
ひっそりと生きて、特別なお寺の庭でもなければ主役にはなれないけれど、この季節、どこにでもあって、変化に富んだ姿を見せてくれます。「苔むした」といわれるのは、いい意味ではないかもしれません。でも、深く根を張ることなく、いともあっさりと相手を覆う彼らの生き方は、力強さだけが生命ではないことをも、教えてくれているようです。
彼らの最もかがやいている時は、このゆううつな曇り空の下にあって、時折の太陽に輪郭を金色にきらめかせる瞬間もまた、雨のまにまに、過ぎてゆきます。
2011-06-04 配信
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