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Vol.5 素直なる紙。
 
 暑い季節は、紙漉き職人さんにとってひと息つけるころでしょうか。土佐和紙もそうですが、紙漉きは冬の仕事。とはいっても、よほど暑さに弱い原料の紙以外は夏場も漉いているし、紙を漉くだけでなく、染め紙や製品への加工もする工房では何かと年中いそがしそうです。
 
 白い一枚の紙。すべての始まり。漉き手の人となりがそこにどれほどあらわれていることか、紙は素直な鏡だと思います。紙を見るとどこの誰が漉いたのかわかるぐらい、それぞれの個性があります。ある人の白い紙は質実剛健な壁を思わせるし、またある人の紙は透明感のある上品な白というふうに。
 
 土佐和紙が特に個性的なのは、楮や三椏といった原料の加工から漉き上げるまですべての工程を、工房ごとに行っているからだと聞きました。原料を加工する人、紙を漉く人という風に分業をしないのです。
 紙漉きの職人として一人前になるのは、自分だけの白い紙を完成させたときではないか、と勝手に思っています。たとえ代々受け継いできた紙であっても、漉き手による微妙な表情の違いが必ず映し出され、やはり自分の紙となるでしょう。職業は違っても、これが自分の白、と言えるような鏡を手にできることを願います。
 
2009-07-10  配信
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