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Vol.32 きびを茹でて塩を振る
山の畑で空へ向かって整列している彼らを見ると、今年もはや半分過ごしてしまったことに、ふと気づきます。
高知のひとたちは、とても簡単に「きび」と呼んでいます。とう もろこし、とうきびのことを。とれたてのみずみずしいのを大きなお鍋で茹でて、粗塩を振ってかぶりつくと、「夏が来た」とわかるのです。歯の間に詰まってしまっても、茹でたてのやけどしそうなきびだけが放つ香りに、すっかり魅了されて、つぎつぎと。それはなぜか決まって夕方のことで、きびはたくさん茹でるほうがおいしい気がします。
まだ少しだけ残っていた黄色い小夏も姿を消すころ、入れ替わりに目を惹く、黄色いきび。茹でる前のきびは淡い緑の皮につつまれて、ヒゲものぞいていたりして、皮をむいて、実のしっかり詰まったおいしそうな姿を見るまでは安心できません。やわらかいのや甘いの、濃い味のもの、懐かしい形のと、さまざまな 「好き」があります。街路市や直販所などに並ぶ、しっかりと粘るような食感の、小さなもちきびにも、すいと引きよせられます。
生産者が畑のそばに小屋を張り、茹でたきびを売っているのは、いの町の通称きび街道。この街道が店じまいをするころ、入道雲と本格的な夏が、やってきます。
2013-07-01 配信
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