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Vol.38  ものうい夏の音
 
 家からすぐの山裾にある桜は、初夏を迎えて緑の葉っぱでおおわれています。その木の下にいたら、頭上で硬いような音がしてきました。バサバサという羽の音も。あっと思って目を凝らすと、いました。小さな鳥が一羽。あとで調べると、きつつきの仲間で最も小さいコゲラでした。すずめほどしかないけれど、モノトーンの羽毛はなかなか繊細にデザインされています。

 コゲラは尖ったくちばしで枝を打ちながら尾羽をひろげて体を支え、器用に先のほうまで移動していきます。私のところからはとても見えない、木の表面や内側にいる虫を食べているのです。鳴き声も低く聞こえます。「おいしい、おいしい」とつぶやいているのでしょうか。生いしげる樹木のクリーニング、たいがいの虫は見つけられてしまいそう。 

 鎮守の杜で夏のあいだずっと、カ行の音で響き渡っている木を打つ音。少しくぐもった、ものうい夏の音をうみだしているのがきつつきだとは知っていたけれど、姿を見たのはほんとうに、初めてでした。音の感じからすればきっと、もっと大きい種類もいるのでしょう。身近にいても姿の見えにくい鳥だと図鑑にも書かれていました。

 この夏は、まるで木が昼寝のいびきをたてているようなあの音が、これまでとはちがった温もりとともに、耳へ届きそうです。
 
2014-06-07 配信
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