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Vol.39  晴れても、あじさい。
 
 奥まった山あいの里では、梅雨がとうに過ぎた8月になってもまだまだ元気にあじさいが咲いています。あじさいの人気が高まっているのでしょうか、道ばたや集落の石垣に植えられた青や紫やピンクのかたまりが、このごろずいぶん増えてきたように思うのです。とくに名所というわけではなくても。
 
 その土地の質やなにかで千変万化するようすは、あじさいという植物そのものが豊かな感情をもっているようにすら見えてしまいます。家に手折ってきたあじさいも、時々水に浸けてあげれば、再びいきいきとしてくれます。たくさんの仲間と咲いているときにはじっくり見ることもなかった一輪が、室内の花瓶にさしたときには、通りすがりに見とれてしまうほどの繊細さです。
 
 平野部よりも日影の多い山里で、民家のそばの木陰や沢の水がしみだすような場所に、夏の盛りも咲きつづけるあじさいたち。お世話をしているひとの姿を思い浮かべます。水をやり、道ばたの草を刈り、肥料をいれて、枯れた花を取りのぞいて。青い空や入道雲のしたで、どうっと流れる蝉しぐれがつくつくぼうしに変わってもなお、やわらかな涼しい姿を保っていられるように。
 
 まだ見たことはないけれど、標高のある山里に白一色のあじさいの道があって、そこを歩いてゆくのはどんな心地がするでしょう。
 
 
2014-08-08 配信
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