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Vol.8 きらきらと。
 
 小雨まじりの空の下を、室戸の町まで出かけました。高知市からの一本道は、土佐湾に沿って東へ東へと延びていて、安芸市のあたりからは水平線が見渡せるようになります。目に入るすべてのものが小休止をしているような、動きの感じられない風景。ほんの少しさざ波の立つ海、くぐもった空は、ドライバーの目を楽しませてくれそうにありません。
 
 用を済ませた帰り道、山沿いのゆるいカーブを曲がったところで、目のはしに明るいものが見えました。灰色の水平線の少し手前に、白い光が降りています。雲がそこだけ薄くなって、まるいスポットライトのように、午後の陽光が海面に降り注いでいるのです。くっきりと照らされた円の内側では、白いさざ波がきらきらと反射して踊っているかのように見えて、なぐさめられる光景でした。
 
 あのきらきらとした場所のなかにいられるのと、少し遠くから輝きを眺めるのと、どちらがすばらしいことなのだろうと思います。あれはもう、車が次のカーブを曲がるころには消えてしまうかもしれません。そして次の瞬間にもふっと、この道の先に降りてくることでしょう。ただその時には、自分のいる場所がそのように照らされていることには気づけないのでしょう。虹のたもとにいるのと同じように。
 
2009-10-24 配信
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