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Vol.18 あかい仔牛
 
 嶺北を東西に抜ける街道から山へ分け入ってゆくと、昭和の面影が残る集落へ着きました。杉木立に守られた毘沙門天様の向かいは、ゆるやかな下り坂。その先に目をやると、土佐あかうしを数頭飼っている畜舎がありました。
 
 母牛のそばに、まだ生まれて間もないようなクリーム色の仔牛が眠っています。初めて目にする、土佐あかうしの生産農家。小さな規模ですが、昔ながらの木造畜舎のたたずまい、山里で大事に飼われている牛たちのゆったりした姿には、ほっとする安らぎが満ちていました。
 
 土佐あかうしは、高知県にしかいない褐毛の牛です。霜降りの多い黒牛が主流の時代にあって、赤身肉本来のおいしさを求めて改良され、放牧もしながら育てられています。
 
 大きくて優しい瞳は黒いアイラインでふちどられ、ひたいには渦巻きのような毛のつむじ。かわいらしい容姿と、人になじむ落ち着いた気性もまた、選んで残してきた特質だと聞いています。あかうしの仔牛は主に嶺北地域で生産されているそうです。山々のふところに、こんな農家が点在していることでしょう。
 
 ものうげな午後の空気に、じっと座り込んで眠っていた仔牛は、やがて立ちあがり、元気よく母牛の乳を飲みはじめました。お宮のそばの水路には小さな泉が湧き出していて、ぽこっ、ぽこっと、山里の鼓動を響かせています。
 
2010-12-01 配信
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