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Vol.13 木曜市の探しもの
 
 お城下の木曜市で、出会ったのです。緑の風が心地よい5月のはじめ。あちらこちらの店先には、まっ赤なトマトが盛られたカゴが並んでいました。大きいの、小さいの、とがったの、ころころしたの。この勢ぞろいぶり、さすがは南国の畑らしく気の早い雰囲気です。いろんな味を食べ比べてみたくて、いくつかのお店で買い集めて帰りました。
 
 小ぶりで皮の固いフルーツトマトもあれば、やわらかそうな大きいトマトもあります。芯まで完熟している、金色がかった赤い大きなトマトは、手のひらにずっしりと重みを感じるほど。口にしたとたん、あまりの自然な喉ごしに、とまどいをおぼえました。皮の食感は果肉とまざりあってどこかへ消えてしまい、体の内側になじんで、すうっと溶けてしまったのです。コクのある風味だけを残して。
 
 ごく普通の桃太郎トマトのはずなのに、育った土と太陽の光によって、これほどみずみずしいトマトができあがる不思議に、しばし包まれていました。決してととのった姿ではなく、街路市だからこそ堂々と並べられる普通のトマト。でも、どんなトマトよりトマトらしくて、作り手の誇りが詰まっています。
 
 来年もまた、あのトマトに会いに行かねばなりません。どのお店だったか忘れてしまったから、次もまた、いろんなトマトを買ってみなくては。
 
2010-05-13 配信
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