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Vol.19 ふゆぞらの果実
 
 ああそうか、そうなのだと思いました。新年の休みに帰省していた女性が、道の向こうを見て「まあ、きれいな青」と感嘆したのです。夏の強い青とはちがう、淡い水色に澄みわたった冬の空が、ひろがっていました。彼女は瀬戸内に住んでいて、太平洋側の高知とは冬の青が違うと言います。
 
 それは高知に暮らしていると、ふつうに受けいれてしまっていることのひとつ。洗濯物を干しながらふと見あげたとたん、魂が吸いこまれてしまいそうな青。冬もほとんどの日に、降りそそぐ太陽のある生活。風のないひだまりのなかに、座っていられること。
 
 いちど嗅いだら忘れられない芳香を放つ柑橘、文旦の黄色もまた、この淡い水色の空に似あいます。仁淀川ぞいに、いの町から越知町へと抜ける曲がりくねった山あいの道。ここでは、たわわに実った文旦の木が、道先案内のように連なって楽しませてくれます。斜面の畑に、川岸に、家々の庭先にも点々と。収穫しやすいように背を低く仕立てられた文旦の木は、実の大きさが際立って、愛らしくもあります。
 
 淡い黄色の文旦は、春先から出てくる小夏よりも、わずかに濃いめの色。そして12月の熟したユズよりも、薄い色です。晩秋から4月の声を聞くまで、街にも田舎にも、ずっしりと大きな文旦が並び、道ゆくひとに誘いかけます。
 
2011-02-09 配信
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