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Vol.6 夏宵の香り
 
 高知の神社では、たいていクスノキがご神木となって、こんもりと枝葉を繁らせています。ふちが少し波打ったような葉は薄くて固く、ちぎると鮮烈な香りがします。かつては樟脳の原料木として盛んに使われた香りの強さ。高知の温暖多雨な気候にすばらしく適していて、山でも平野部でもごく普通に見かけるなじみ深い姿です。追手筋や県庁前、はりまや橋から桟橋への電車通りなどには、大きく成長したクスノキ並木が見られます。さらに、須崎市大谷の須賀神社では、通称大谷のクスノキ(国の天然記念物)、四国最大といわれる巨木クスノキにも出会えます。
 
 クスノキの木の香りは、太陽が隠れる日没から、いっそう強くなるように感じられます。夏祭りの宵に、夜店のざわめきとともに満ちている独特の香り。人混みの熱気やお囃子の音にも負けない、クスノキだけが持つ、身を引き締めるようなメッセージ。たこ焼きやらお酒の匂いまでも、木が全身から放つ芳香とブレンドされて、混沌とした夏祭りの夜気が生まれます。夕立の後などはまた、格別に。
 
 身近な木でありながら、どこか人の世界と離れたものを思わせる、しんとした香り。あの香りを言葉にしようとするといつも、「しん」とする静けさが、響いてくるのです。
 
2009-07-31  配信
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